2007年05月08日22:21
ラジオドラマの脚本です。
それでは、お楽しみください・・・。
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■それでも甘いキス
脚本 中山あきら
エピソード提供 気まぐれ天使

進「誠さぁ、明美ちゃんが飲み会に出るっていったら、二つ返事で帰省するってさぁ。大学行ってから帰ってくるの、初めてだよなぁ。誠ぉ~。俺は悲しいぞ!女のためなら帰ってくるのに我々友人のことはどうでもいいのか!」
誠「進 飲みすぎだよ・・・。第一、それが目的みたいに聞こえるじゃんか・・・ちょっとさぁ・・・」
(かぶせて)
明美「うれしぃ~!ほんとにぃ~??」
進「お~っ!商談成立。今日は誠のお持ち帰りだな。明美ちゃん」

大学生になってから3回目の6月だ。おいらは3年ぶりに帰省する事にした。裕福とは言えず、実際バイトで食いつなぎながら学生生活を送っているおいらにとって、帰省の費用がない上に、バイトができない期間を作るのは、結構勇気が必要だった。

明美「ねぇ。久しぶりにあの歌歌ってよ。なんとかの得意なやつ」
誠「えっ!歌?歌って?」
明美「いいから。分かってるんでしょ?あれよあれ。」
進「おー例のヤツか!おいらも聞きたいなぁ。」
誠「いやぁ。歌はうまくないしさぁ・・。酔っ払ってるよね・・・。二人とも。第一、あれ、で思い当たる歌なんてないしさぁ・・・。」
明美「あははぁっと。わかんないんだ。私も酔っ払ってる自覚は十分あるのよね。ちゃんと帰れないかもぅ」
進「誠ぉ。明美ちゃん、帰れないってさ。一人じゃ。」
誠「ん?」
進「ばっかだなぁ~さっきから明美ちゃん、誠に送って欲しいって言ってんじゃないの?ねぇ」
明美「違うわよ~。進君ったらぁ~。どっちでもいいかぁ。楽しいし!」

(誠の台詞)
しかし、さっきから、同じ話の繰り返しだ。
普通の居酒屋。
カラオケはない。
だから歌なんぞ歌えるわけがない。
というよりも、歌がうまいのは進で、おいらには無理。
あれって言われても歌も身に覚えがない。

直子「ねぇねぇ。誠君ってさぁ、大学で彼女できたの?直子しりたいなぁ~。まだ明美のことが好きなの?」
誠  耳元で興味のない同級生が話し掛けてくるのが妙にうざったい。
直子「あー!誠君いま私のことうざったいっておもったでしょ!」
誠  ・・・はいはい。思いましたよ。確かに。でもそんなこと言えないでしょ?
直子「きいてるのっ!まーこーとーくーん!」
誠「あ、ごめん。ちょっとお手洗いいってくる。ごめんね。直子ちゃん」
直子「あーもうっ!相手してくれないよ~進ぅ~」
進「ほっといてやれよ~。誠は明美ちゃんと話したいんだからさぁ。」
直子「だから明美がトイレに行ってる間ぐらいいいじゃない!」


そんな調子で、10人ぐらい集まっていた同窓会もどきの飲み会は、終電ぎりぎりにお開きになった。それぞれ、勝手な方向に勝手なグループで帰宅、という感じだ。意外だったのは皆岡崎に帰るわけではない、ということだ。進が言ってくれたおかげか、岡崎に帰る仲間が少なかったせいか、結局僕は明美ちゃんと岡崎まで帰ることになった。正直嬉しかった。
電車に乗って、二人で話ができることを期待していたら、隣に座った明美ちゃんは、あっという間に寝てしまった。しかも、おいらの左肩を枕にしている。これでは何も話せない。

誠「明美ちゃん?もうすぐ岡崎だよ?」
明美「え~? ええっ~? もう着いたの?」
誠「大丈夫?時々苦しそうだったけど・・・」
明美「うん・・・。ちょっと吐きそう」
誠「もうすぐだから!我慢できそう?かな?」
明美「わかんない・・・ぐっ」
誠「あーーーーーーっ!」
明美「だ、大丈夫、まだ我慢できる・・・」

駅「東岡崎~ 東おかざきぃ~」
誠「ほら、降りよう!」
明美「うん」
誠「歩ける?かなぁ」
明美「ねぇ。誠君、この後って用事ある?」
誠「え?と、特にないけど・・・。どうして?」
明美「一緒に帰ってもらっていい?」
誠「そ、そりゃ構わないけど」
明美「よかった!安心。ゆっくりでもいい?」
誠「あ、うん」

改札を出て、何をしゃべっていいのかさっぱり分からないまま、口が動く限りしゃべっていたら、明美が急に路地を走り出した。
明美「来ないでねっ!」

あきらかに・・・。戻している。
来ないで、って言われた。けれど、どうしよう。迷っている内に、明美ちゃんが戻ってきた。介抱もできないんだ・・・。自分、それでも男かよ・・・。

明美「ごめんね。」
誠「い、いや。だ、大丈夫?」
明美「来ないでくれてありがとう!大丈夫になったよ!ねぇねぇ。で、さっきの続きだけど・・・。」

誠 何事もなかったかのように、また二人で話しながら歩き始めて、程なく、彼女の家の近所まで来た。普通なら駅から10分ぐらいのところを1時間ぐらい掛けてゆっくり帰ったことになる。

明美「送ってくれてありがと。家の人に見つかると騒ぎになっちゃうからここでいいよ。」
誠「あ、うん。帰れてよかったよ。ほんと。」
明美「ねぇ。あの歌、ほんとに忘れちゃった?歌って欲しいって言ったあれ。」
誠「歌?うーん・・・。」
明美「そっか・・・。忘れちゃったんだ。嬉しかったんだよ。歌ってくれて。」
誠「俺が?歌?」
明美「そう。歌ってくれた。高校の時に」
誠「そうだったっけ?」
明美「あはは。私の為って訳じゃなかったんだと思うけど、すごく元気になったの。あの歌を聴いて。誠君、へたくそでしょ。歌。だから余計!」
誠「あー!思い出した!修学旅行かよ。歌った。アニソンだろ!」
明美「思い出してくれた?よかった~今度会うときは聞かせてくれる?」
誠「・・・へたくそだからなぁ・・・。」
明美「ね。約束だよ」
誠「うん・・・」
明美「じゃ、目つぶって、きをつけ!」
誠「な、何?」
明美「いいから」
誠「うん・・・」

明美「送ってくれてありがとね!おやすみなさい!(キスの音)」
誠「うおぉぉ~!」
明美「誠君 声大きいっ!」
誠「キ、キス! し、したよね。今」
明美「ごめん。すっぱかった?
誠「うん・・・すっぱかった・・・。」
明美「よっぱらい嫌い?」
誠「へ?いやいや甘かった!」

あまりにも嬉しく、おいらが実家まで走って帰ったのは言うまでもない。