2007年02月09日23:25
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夕陽
エンジンをかけた車内で、さっきまで訪問していた顧客の名簿を営業カバンにしまった祐二はカーステレオのスイッチを入れた。いつもFMおかざきに合わせてあるラジオからイブニングワイドが流れてくる。ブレーキをはずしてアクセルに足をかけて車を出す。車を出しながら祐二は声になるかならないか、独り言をつぶやいた。

「そう。今日も、もうおわり。契約、とれなかったしな・・・。 最近、営業周りでいいことないなぁ・・・。 ここのところ、季節感のない暖かさだし。外を歩いてると、意外と汗をかくんだよね。まだ3月なのにさぁ。夕方かぁ。ちょっと滅入るなぁ。 しばらく祥子に会う休日も取れてないし・・・。 長距離でもないけど、岡崎と瀬戸は近そうで遠いもんね。 」

不機嫌そうな舌打ち混じりだ。が、急に目尻がさがった。口元もにやけている。

「そう。愛知環状鉄道。岡崎と瀬戸はこの電車でつながってるんだよね・・・。祥子と知り合うまで、興味なかったな。万博で皆利用してたな。俺は行かなかったけど。万博。その前に祥子に会ってたら絶対一緒に行ったさ。うん。」

一緒に、と聞こえた。愛知万博ね、と続けたあと、祐二はまるで子供が母親に自慢話をするような表情になった。得意げな顔、というのだろう。そして彼女の名前を口にした。

「祥子・・・。くだらないことを言ってたなぁ。
『愛知だから、愛を知る場所。そこに二人は一緒にいるんだね』
って。 ははっ。政治家みたいじゃん。祥子、頭いいからなぁ。
それと・・・、
『愛知環状鉄道で私が岡崎までくるときに、あなたと私の感情をつなぐ電車に乗っているのがなんか嬉しいかな。赤い糸みたいで、ね』
って。つながってるっていい感じだよね。
まだあったな。略すと愛環。
『哀しい感情も哀感って読むじゃない。正直、帰るときは寂しいな。ちょっと距離があるから、しょうがないけど』
って。 おいらが行ったときに帰るときも寂しいもんなぁ。それはわかるんだよな・・・。 」

思い込みが激しい性格なのだろう。今度は哀しそうな顔になっていた。信号待ちで止まって車の燃料計を確認した祐二がハンドルを握りなおした。

「あ、やばい。ガソリンなくなってきたな・・・。最短ルートは・・・。殿橋か。」

岡崎を南部から北部へ抜ける道は幾つもある。祐二は殿橋を渡るコースが好きだ。南部から岡崎城へ向かうこの道は、国道248号線の旧道で、昔は路面電車が走っていた。今は電車通り、と名付けられている。
祐二は2週間ほど前の休日に、祥子と飼っている犬を車に乗せ、この道を菅生川向けて走った。今日と同じだ。そして河原を散歩をした。それから二人は会っていない。
殿橋に差し掛かると、見えているものが急にオレンジ色に染まった。
祐二はその色に目を奪われた。

「あー!すごい夕陽だよ。すんげーきれいじゃん。なんだかな。いいね。これ。」
殿橋を渡り終えると、興奮気味に祐二はハンドルを左に切って、川沿いの道に入る。左折してそのまま車を左に寄せる。そこからだと、菅生川が少し左にカーブしてゆく景色が全て視界に入ってくる。川の行く手には名鉄の鉄橋が遠く見える。その鉄橋は大きくオレンジ色に光る夕陽を頂いていて、影になっている。一日の終わりを告げる様に街を包み込んでいる夕陽。祐二は車を降りた。

「すごいね。夕陽が水面にきらきら反射してるよ。」
祐二は上着の右下のポケットから携帯電話を取り出して、夕陽に向って構えた。写真を撮るのだろう。しかし、夕陽を撮る、のだから、逆光になる。簡単にうまく撮れるはずがない。祐二は数枚写真を撮った。
「あれ・・・。あんまりきれいに撮れないなぁ・・・。目で見るほうがやっぱ、きれいだな。」
あきらめたのか、夕陽を眺めた。それでも満足そうだ。
少しして、また携帯電話を弄り始めた。
「・・・なんとかうまく撮れないかなぁ・・・。えっと、風景モード、と。便利な機能があるじゃない。あと、照度?いろいろできるのね。この携帯電話・・・。」
また数枚写真を撮った。どう操作したのか、自分でもわかっていない。
「うーん。どうだろ。ま、でもきれいなほうか。うん。」
右手の親指を夕日に向って突き出している。満足気な表情だ。

「でもなぁ・・・。遠い町だよな。瀬戸。祥子の街。こんな風に赤く染まってるのかな・・・。 祥子もみてるかな。この夕陽。見てるといいなぁ。見てると、ね。そんなことはないか、な・・・。 でも、おんなじ夕陽見て、おんなじ気持ちでいられたらいいよな・・・。 」
携帯電話を片手に、空を見上げたり手元を見たり忙しない。

「こういうの、なんていうんだっけ?シンクロニシティーとかいうんだっけっか。そんなこと、祥子、いってたよな。 おいらはポリスのアルバムでしか知らないけど。ってマニアックでわかんないからっ!って祥子に言われたっけ・・・。いわゆる、以心伝心?やっぱり見てるといいなぁ。この夕陽。 」
残念なことに夕陽はすぐに雲に隠れてしまった。急に辺りが、ぼんやり、という明るさに変わった。行き交う車のヘッドライトがわかり始める時間帯だ。夕方、が終わって夜が始まる。太陽が沈んで、月が見え始める。

「できるだけ祥子と一緒にいたいなぁ。月並みに幸せって感じ。 ばかだねぇ~。【夕陽】なのに【月】並みって。笑うね。・・・でもウケないね。多分おいらだけだね・・・。笑うの。」
さっき撮った写真を祥子に送ろう。そう思った祐二は一番きれいに撮れた写真を選びながら少し悩んだ。。
「メールの文章はなんて書けば・・・。このギャグ書いたらフラレるかな・・・。んん・・・。写メだけにしようかな・・・。よし!何にも書かないで送ろう! 新規メール作成、っと・・・。」
結局、写真を撮ったことと、お疲れ様、という簡単な文章を送ることに決めて、携帯電話のメール作成画面を開いた。

その、祐二の手が止まった。
メールの着信だ。
「あれ?祥子からメールだ。」
開いてみる。
「なんだろ・・・。」
メールのタイトルはお疲れ様、だった。
「あははっ。すごくきれいだ。」

「お仕事お疲れ様!今日も外回り?あんまりきれいだったから写メ撮ってみた!祐二にもみてるといいな。真っ赤な夕陽。」

祥子から届いた夕陽の写真を、祐二はしばらく眺めていた。
そして、写真だけのメールを送信した。

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ラジオドラマは某局3月20日の週にはオンエア。
小説版は某3月号に掲載予定。
超ローカルメディアのコラボ。
公私は混同しないけれど、この経験も本業に役立つ日が必ずくる、と信じている。
私的、には、書き下ろした歌「夕日 改め 【夕陽】」を、昨日、miki☆に歌ってもらう話をした。
制作には時間がかかると思うけれど、それはそれでやってみよう。

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書いていて思う。
一人ではできない。
一人では完成しない。
レベルはきっと高いほうが良いに決まっているけれど、おいらはやっぱり「関わり合い」が好きで、そのために何かしているんだろう、と思う。
一人では生きていけない。
それは、そういうことなんだと思う。

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今日はエロなしで。

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同じネタをどれだけ引っ張るのか・・・。中山あきら・・・。
おいらの存在価値は?

年齢不相応、ともいえるこの問いかけには、答えがない。
答えがないことを知っている分だけ、大人ではあると思う。

今感じていること。
求められることに、どう答えられるか。
答えるために、何をしたらよいのか。

職業人としての考え方なら、正直、その立場や役割分担まで含めた企画力を磨き、マネージメントすることに全て注力すべき、だと思う。

が、そうではない。
きっと、自分の中から出てくるものを、どこにぶつければいいのかわからない若造と同じ感覚がそれを超えてあるのだとも思う。

夕陽。

そして、今日は、小説版。昨日の呟き版は、ラジオドラマ用。結局、SCOに頼もうと思っていたのに、その場の雰囲気と、流れ、自己表現の欲求で自らやることにした。

撮り、歌い、語り、書く。
俺には絵が書けない。
書道もできない。
芸術、表現する方法は、文化の数だけあるんだと思う。

言葉ではない。
言葉では伝えられない。
言葉では足りない。

今日は、『書く』。
ストーリは同じ。
表現を変えた。そういうこと。