2006年09月20日15:05
夢と別れに乾杯(2)
圭子「でも、おせっかいじゃない?」
直樹「だけど、千恵ちゃん、持ってきたんだろ。さすがに自分では明には渡せないだろ。でも、この歌はどうしても明に聞かせなくちゃ・・・」
圭子「やめときなさいって」
直樹「・・・だめかなぁ。」
圭子「明君、千恵が頑張ってるからオレも頑張るんだって。絶対あいつの音楽活動の邪魔はしないんだって。本当は未練たらたらの癖に自分が抑えられないかもって、千恵の携帯の登録も消してんだよ。」
直樹「・・・だけどさぁ・・・この歌聞かせたら、あいつ、変な力が抜けるんじゃないかと思うんだよね・・・。いい考えだと思うけど・・・ダメ?」
直樹「いいの。明に電話かける。」
圭子「・・・ったく・・・」
(電話のが鳴る音)
直樹「・・・出ないな。メール打っとくか。」
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明 三ヶ月。あれから三ヶ月たった。あの乾杯以来、アルコールは口にしてない。そのおかげか、体調もいいし気分も意外と安定してる。太陽を気持ちよく感じたり、ずいぶん体が軽い。最近はきっといっぱいいっぱいだったのはお互い様で、千恵もオレを解放してくれたんじゃないか、なんてことも感じてる。定時で切り上げて帰ろうかと駐車場に着いたら携帯に着信があった。
千恵「大山・・・です。小谷くん・・・」
明「・・・久しぶりだな。千恵ちゃん。頑張ってるのか」
千恵「うん・・・。小谷君も頑張ってる?」
明「あ、ああ。俺なりに、はな。」
千恵「あの・・・明君、急だけど、逢えないかな・・・。」
明「・・・あ、ああ。用事ないし。いいけど。」
千恵「ごめんね・・・。じゃ、よく行ってたあの店でいいかな・・・」
明「うん。わかった。じゃ、後で。」
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店員「いらっしゃいませ~」
明「・・・まだ着いてないか・・・。」
(カバンの中あたりで電話のなる音)
明「あれ、携帯しまっちゃ電話に出れんな・・・。はいはい、ちょっとまってよ、と。
はい。小谷です。
あれ? ああ、 遅かったか。 んー誰。直樹か。」
(発信)
直樹「なんだ、電話に出ないからメールしようと思ってたんだ。」
明「うん。ちょっとでれんかった。どうした?」
直樹「うん。千恵ちゃんのことでな。」
明「ん?ああ、これから会う事になってる。」
直樹「えっ!まじでっ?そうなんだ。じゃ、また後でいいや。終わったら電話くれよ。」
明「あれ、用事じゃないの?」
直樹「いや、いいんだ。うん。あとでな。じゃ。」
電話が切れる///
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明「なんだ?あいつ。」
変なやつだ。電話してきておいて。ま、急がないんだろう。
そんなことを思っていたら、千恵店に。結構緊張するものだな・・・。
明「久しぶりだな。」
千恵「久しぶりだね」
明「どうした?」
千恵「うん。どうしてるかと思って。急にごめん」
明「“急”なのも“ごめん”なのも大丈夫だよ」
千恵「小谷君なんか雰囲気変ったね」
明「大山さんもね。それより、会社とかお父さんとか大丈夫だったのか?あの後。」
千恵「・・・。うん。会社は辞めた。大阪から帰ってすぐね。」
明「じゃ、今は音楽に専念してる、ってことか。良かった、じゃない。?。」
千恵「そうね。」
明「お父さんは相変わらずなのか?」
千恵「・・・」
明「ごめんごめん。いいんだ。いいよ。」
千恵「あのね。今更、なんだけど・・・」
明「・・・なんだ?」
明 しばらく言いずらそうにしていた千恵が、いや、大山さんが切り出したのはこういうことだった。せっかく曲を書いても、どうも自信がなくて先に進めない。書き貯めた曲で使えそうな候補が十数曲になったけれど、それを聞いて欲しい。聞いて俺に批評して欲しい、と。適当なことを言うんじゃなくて、ストレートに感想を聞かせて欲しいんだと。それからデモCDを渡された。どっちみち店の中じゃ聞けないし、どうして俺に頼むんだ?という疑問よりも、千恵の書いた作品がどんなものなのか、という興味のほうが勝ってしまったんだろう。次に逢う約束もしないまま、二人で店を出た。
千恵「じゃ、いつでもいいから。お願いね」
明「ああ、帰ったら早速聞くよ。」
千恵「じゃ、さよなら」
明「ああ。さよなら」
千恵「あ、ありがとね。」
明「いや、気にしなくていいよ。」
//////直樹・圭子夫妻宅////////
圭子「ほら、りく!静かにしなさい!ナオぉ?電話、明君から?」
直樹「ああ。明。明と千恵ちゃん、これから二人で逢うらしい。」
圭子「えっ?」
直樹「オレもびっくりした・・・。ヨリ戻すつもりなのかな。」
圭子「まさか・・・」
直樹「じゃ、なんで?」
圭子「間違いなく千恵だと思う。連絡したのは。」
直樹「じゃ、自分で聞いてもらおうと思って持っていたのかな。候補曲。」
圭子「えー。千恵の神経疑う。それは明君には酷じゃない?好きなのに別れを一生懸命飲み込んだんだよ。」
直樹「そうだな・・・・や、だけど、オレはいいと思うよ。俺も聞かせたい派だもん。」
圭子「こんなときに頼っちゃダメだよ。千恵は。明君、断るんじゃないかな」
直樹「あははーそりゃ無理だよ。あいつに断れるわけないもの。」
圭子「どうして?」
直樹「圭子も知ってるだろ。明の性格。相当人に左右されるし優柔不断なのに、本人はそれに気づいてないから。」
圭子「それもそうね・・・」
(秋の虫の音をBGMに)
明 なんかひどく緊張して急に疲れた、今日彼女と会ったのが不思議だな、いや不自然だよな、そう思う。そういえば直樹から電話があったんだっけ。かけなくちゃな。
明「直樹か?」
圭子「あ、ごめん。直樹、お風呂に入ってるんだ。今。」
明「そうか。なんて?」
圭子「・・・うん。千恵と逢ってたんだって?」
明「ああ、今ね。」
圭子「CD?」
明「え?知ってたの?」
圭子「ううん。千恵、ウチにも持ってきたから、そうかな?って。」
明「そうか。じゃ、もう聞いたのか?圭子ちゃん。」
圭子「うん。明君は今から聞くの?かな?」
明「いやぁ・・・。正直聞く勇気ないし・・・。どうだった?」
圭子「んーやっぱ自分で聞くのがいいと思うけど・・・。って直樹が言ってた。」
明「あ、ああ。そうか・・・。」
明 帰宅して鍵を開ける。飼っている猫の鳴き声が聞こえる。少し遅くなったからハラをすかしているのだろう。
明「はいはい、ただいま!くーちゃん。おなかすいたか。ちょっとまっててな。」
明 飼い猫達に餌を用意しながら、ま、考えてもしょうがないか、とCDをひっくり返しながら見つめてみた。聞くか。何曲入ってるんだろ。あれ?これ、一曲しか入ってないじゃん・・・。なるほど・・・。感想ってのは嘘か。あいつ、これだけを渡したかったんだな。これが歌詞カードか。懐かしい字だな。【ラブストーリー】ね。俺たちは終わっちゃったけど。なるほど。そうか。意外と派手だな・・・。
/////直樹・圭子夫妻宅 知恵が遊びにきている。/////
犬の鳴き声とともに、遠くから走ってくる人と犬の足音が聞こえる。
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千恵「あー久しぶりにワンコと遊んだ!ホントに圭子のトコ、理想の家庭、って感じだね。」
圭子「ほめてるの?あんまりこういう生活望んでないでしょ?ところで先週、明君とはどういう話したの?」
千恵「なんで知ってるの?」
圭子「たまたま、かな。直樹が・・。」
直樹「おう!千恵ちゃん。きたねぇ。いらっしゃい。」
千恵「直樹君も三ヶ月ぶりだね。元気?」
直樹「おいらは君たちのことが心配で心配で夜も眠れませんよ。実際。」
圭子「嘘をつけ、嘘を。がーがー寝とるっちゅうの。馬鹿言ってないで、ほらっ!」
直樹「そうそう。明から預かった。ほらこれ。なんとかグリコ。千恵ちゃんきたら三人でって。」
圭子がテーブルにシャンパンを出す。グラスに注ぐと、ピンク色の泡が沸き立っている
千恵「グリコじゃなくて、ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム ロゼ。金色に輝くパール・ピンクの泡が特長。赤い果実を思わせる香りは、やわらかなアロマと大地の息吹きが交錯する。口に含むとフレッシュ・フルーツの新鮮さが香り立ち、続いてピュアなドライ・フルーツのアロマ感を楽しむことができる。」
直樹「あはは。やっぱり同じこというんだな。明と。」
千恵「小谷君といつも・・・。」
圭子「お祝い事があると飲んでたんでしょ?」
千恵「あれ?じゃ、」
直樹「明、すぐ気づいたよ。千恵ちゃんからだって。結局『あいつ、オレにも走れって言ってんだ。わかったよ! 乾杯してくれ。オレと千恵 それぞれ 二人の未来に!』って、くさいこと言ってたな。なぁ?」
圭子「似てないけどねぇ。」
千恵「なんだ・・・。ずっと引っかかってたのに・・・。」
圭子「おかげでこんないい曲ができたじゃない。歌詞も、ね。」
千恵「両方求めるのは無理だったモン。だから歌にしたの。」
直樹「嘘。両方をかなえたかったから歌にしたんじゃないの?」
千恵「・・・どうだろ・・・。」
圭子「だからCD渡したんだ。自分で。」
千恵「ただ聞いて欲しくて、かな・・・。なら自分で渡そう、と思った。」
直樹「伝わってるみたいだね。明に。な。」
圭子「そうね。さぁ、乾杯、しよっか?付き合うよ!」
千恵「うん。ありがと。 明君と私の それぞれの未来に。乾杯!」
